渋沢栄一と偉人たち【徳川昭武】1
渋沢栄一と偉人たち【徳川昭武】
世の中、たとえ良い家柄に生まれ何不自由なく育ったとしても、その先の人生はどうなるのか分からない。
身分には大いに恵まれていたのに、その時代の流れに翻弄されてしまった「徳川昭武」。
徳川昭武は、江戸幕府、徳川家第15代征夷大将軍「徳川慶喜」の弟であり、江戸時代、慶応三年(1867年)に渋沢栄一を引き連れてパリへ向かい、欧州文化を学ぶためにヨーロッパへ派遣されました。
大河ドラマ「青天を衝け」では、板垣李光人さんが貴公子のような品の良さを醸し出し、好演されていましたが、史実上ではどのような人物だったのだろうか。
渋沢栄一と共にヨーロッパへ
徳川昭武は、東京駒込にあった水戸藩の中屋敷で嘉永六(1853年)に誕生した。
父親は、水戸藩主の徳川斉昭。兄は、徳川慶喜。
この時代、情勢も不安定、尊王攘夷を謳っていた時期でもあると思われるが、そんななかで幼少から水戸や江戸や京を行ったり来たりしていたようで、10歳では既に京で佐幕派のリーダーだったと言われている。
そして14歳で清水徳川家(御三卿のひとつ=江戸幕府八代将軍・徳川吉宗がつくったいわゆる分家のようなもの。親戚にあたるイメージ)に養子として家督を継ぎ、水戸家からは離れていた。
そして、兄慶喜の名代としてヨーロッパへ留学する事になったのだった。
パリでナポレオン三世と謁見した後、パリ万博を見物。
1867年第2回目パリ万国博覧会へ向かった幕府の使節団
当時のフランス皇帝、ナポレオン三世が、パリ博覧会では世界各国の元首を招待し、日本にも出品と招待をしたことで派遣されることになった。
その当時の幕府の 狙いは、
①フランスとの関係強化(主に軍備増強の為)
②幕府の国際的な地位向上
③長期留学を前提とした昭武の教育 だった。
昭武は、留学中、スイス・オランダ・ベルギー・イタリア・イギリスの各国の王と謁見している。
ヨーロッパを一周してパリに戻ってきてからはヨーロッパの社会経済などを学んでいきました。
しかし、慶喜が翌年大政奉還を行ったことで、昭武の立場も格下げになってしまう恐れがあった。
廃藩置県で知事を罷免、今後は陸軍の教官
中には先に帰国するものもいたが、昭武は慶喜からそのまま残って勉強するようにという手紙が届き、暫くパリで過ごした。
それに対し、いよいよもって明治新政府から帰国命令が届き、やむなく帰国を決意。最後に10日間で城下町であるカーン、港湾都市のシェルブール、ナントなどを旅行したとされている。帰国後役に立つだろう視察と思われる。
ベルギー訪問時の昭武(左から3番目)
パリで戻ってきたときに、長兄で水戸藩主の慶篤が亡くなった為、後を継ぎようにという知らせを受け取る。昭武の留学は1年ほどで終わることになった。
戊辰戦争時にはいなかったためか、昭武は版籍奉還(=各地の半に属している領地と領民を天皇に返す)ことになり、その際に水戸藩の知事に任じられた。
※発端は戊辰戦争中、新政府の財源として各藩から領地を献上させようとしていた。木戸孝允が版籍奉還の仕組みを考え、長州・薩摩に同意させたといわれている。
その後、廃藩置県になり、知事は免職。4年ほどゆっくりと過ごした後陸軍へ入ると教官となる。この時昭武は22歳だった。
若くして千葉の松戸で隠居生活
陸軍の教官になった翌年に結婚、その後も度々ヨーロッパへ留学していたという。
30歳の時、長女が産まれた時に妻が亡くなってしまう。妻の死から4カ月後、隠居願を出し、家督は甥に譲り、千葉の松戸、戸定(とじょう)邸という屋敷で生活していた。家族と一緒に過ごしていくという幸せは得られなかったのは残念なことだ。
現在は、千葉大学園芸学部の隣にあたる、元大名屋敷といわんばかりの立派な所だ。
大正天皇が皇太子時代に来られたこともあるとのこと。
隠居後は、同じく隠居した兄の慶喜との行き来し、写真や狩猟など共通の趣味で仲良く過ごしていた。
「ご隠居さん」という言葉は、その後も地位高い人で相談役のような人のことを現在もいうのだろうが、このときにできた言葉なのかもしれない。
麝香間祗候(じゃこうのま しこう)という明治天皇の相談役に任じられていたため、皇居にも引き続き度々訪れていたようだ。波乱万丈な貴公子も、最後まで気高く品の良い人物でいられたのだろう。ヨーロッパで経験したことを、渋沢栄一と違った側面で日本の近代化に向けて発信していたに違いない。
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